未知の生物を学ぶということ【前編】

思考実験
この記事では、生き物の写真が出ます。
苦手な方はご注意ください。

常識のその先へ

この紫のやつ、な~んだ?

なにかの花?普通の人はそう考えますよね。
コバノタツナミソウ(Scutellaria indica var. parvifolia)」だと思った方はかなりの博識ですね。植物学者さんでしょうか?それとも朝ドラでも見ましたか?(コバノタツナミソウの命名者は牧野富太郎です。)
ですが残念…!それだと50点しかあげられません。この紫は全てがコバノタツナミソウではないのです。

じゃあコバノタツナミソウによく似てるけど別種のタツナミソウ(Scutellaria indica)オカタツナミソウ(Scutellaria brachyspica)が混ざっている

いえいえ、そうではありません。

正解発表といきましょう。

実はこの写真、動物が写っているんです。
まずそこに気ついたでしょうか?

どれだ、って?

赤で囲った部分です。点線のところは、葉っぱの下に隠れている部分です。

そう!
実はこの花みたいなの、
動物なんです!!

この生物は、ムサシバケグモ(Dissimuloia Musashiensis)。バケグモ科バケグモ属に分類されるクモの仲間です。

生き物の擬態ってすごいよね

ほぼ全ての人があれを花だと思って疑わなかったんじゃないですか?
本当に見事な擬態ですよね!!

ここから、この見事な擬態を披露してくれたムサシバケグモの解説をしていきます。

そもそもバケグモ科とは、名前のとおり、他の生物に化ける(擬態する)クモの仲間たちです。クモ目の中では比較的新しく作られた科になります。

昔話などにも化蜘蛛というのが登場しますが、あれは「蜘蛛の化け物」を指す言葉でバケグモ科のクモとは違います。

ムサシバケグモは、神奈川県川崎市で発見されたので、川崎市の旧国名「武蔵」をとってムサシの名前が付きました。
生息域は関東全体で、コバノタツナミソウが生えている場所で発見できますが、都市部ではめったに見つかりません。

体長(脚を除いた大きさ)は♂️で25-30mm、♀️で15-20mmほど、体色は茶褐色で模様はありません。寿命は3年ほど。この色とサイズ感はアシダカグモ(Heteropoda venatoria)とほぼ同じです。
実際、バケグモ科と他のクモのDNAの比較から、アシダカグモ科が最も近い親戚であることがわかっています。


画像:アシダカグモ|昆虫エクスプローラ

よく民間に出てきて人々を驚かせるこいつがアシダカグモです。見た目はアレですが、ゴキブリを食べてくれるいいヤツですよ。

しかしムサシバケグモの特徴はそこじゃない。なんといってもその第1脚(一番前の脚)でしょう。
第1脚がコバノタツナミソウの花にとてもよく似た形態をしています!茎に見えるのが第1脚、花に見えるのが進化の過程で変形した第1脚の毛です。

ムサシバケグモは体をコバノタツナミソウの葉っぱの下に隠し、この第1脚だけを上に持ち上げて花に擬態します。そして花のミツ目当てに寄ってきたをそのまま捕まえて食べます

なので彼らは網を張らず、地表を動き回る徘徊性のクモに分類されます。(徘徊性のクモには、アシダカグモや、ハエトリグモの仲間などがいます。)

花に擬態し、寄ってくる虫を食べる生物はハナカマキリ(Hymenopus coronatus)が有名ですね。こちらはラン科の花に擬態します。


画像:【橿原市昆虫館だより】お花のようなカマキリ「ハナカマキリ」

カマキリとクモ、違う生物が虫を獲るという目的のために「花への擬態」という同じ結論に到達するのは面白いですよね!
このように違う分類の生物が進化の結果同じ機能を獲得することを収斂しゅうれん進化と呼びます。

暖かい時期はそのように過ごし、寒い冬は第1脚も畳んでコバノタツナミソウや付近の落ち葉の下でじっと休眠して春を待ちます。
(コバノタツナミソウの花は6月ですが、多年草なので葉っぱは1年中ついています。)

コバノタツナミソウの寿命は2年ほどですから、自分が潜んでいた株が枯れたら、近くの別の株に移動します。そこで♂♀が出会えば、繁殖行動をします。

クモと花、種類の壁を越えて

ここまでムサシバケグモの説明をしてきました。
しかし、生き物は自分だけでなく、他の生物と関係しながら生きています。
なので、ここで少しムサシバケグモとコバノタツナミソウとの関係も説明させてください。

この生物が発見された当初は、コバノタツナミソウにとって害虫だと考えられていました。コバノタツナミソウはミツバチなどの昆虫に花粉を運んで貰いますが、ムサシバケグモはそれを食べてしまうからです。

しかし研究の結果、ムサシバケグモはコバノタツナミソウの葉を食べる虫も食べるので、花を守っている面もあることがわかってきました。
さらに、ムサシバケグモは基本的にコバノタツナミソウの根元で過ごすので、当然そこでフンをします。それがコバノタツナミソウの肥料になっている可能性も近年では指摘されています。

こうした研究の結果、現在では両者は共生関係の生物だと考え直されるようになりました

植物と共生する生物はいくつか知られていますが、クモとの共生は非常に珍しいケースです。

「花への擬態」「植物との共生」という非常に異例な特徴を持つクモ、ムサシバケグモですが、なんともう1つ大事なことがあるのです!
「まだあんのか!属性盛り過ぎだろ!」
と思われるかもしれませんが、もうちょっとだけお付き合いください!!

次ページ:バケグモって実は〇〇〇〇〇〇なんです!
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理系出身の文系大学生。横浜市民。
趣味はアニメと読書とデュエマと動画鑑賞。
去年生き物を飼い始めた飼育初心者。

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